一日の仕事の中で、一番苦痛な午前4時の納品の時、
再び老婆はやってきた。 プリペイド式携帯を買ったはいいが、
音が小さくて使いものにならないと言ってきた。
マネージャーからは「身元証明よりも売り上げ」と言われ、
免許証のコピーも受け取らず、本体を売ってしまったが、
本当に良いものかと思っていたところだった。
常連客で、
客引きの仕事以外に使いはしないだろうと、自分を納得させた。
購入の際、妙にコソコソとした態度が気になっていたが、
隣のバッファローマンには内緒らしい。
受話音量が小さすぎて聞こえないと言っていたが、
確認のために店の電話でチョウさんに掛けさせてみると、
鼓膜が痛みを感じるほどに大きかった。
「先輩!オトコのヒト、デタ」と戸惑っていたが、問題は
なかった。 どちらにも本音は言えないまま、『大丈夫』と言うと
どちらも納得した。
長い道のりに見える納品作業を続けていると、また老婆から
声が掛かった。 今度は残りの通話可能時間を聞きたいらしい。
老人には多いことだが、自分では何もしようとしないのか。
説明書に書いてある通りに、ガイダンスに電話を掛けてみると、
ハローとかなんとか言われた。 苦い笑いをかみ殺しながら、
説明書通り、ガイダンスを日本語に切り替えて、使い方の
説明を続けた。
仕事の続きに戻ろうとしたとき、今度は老婆が右手を
差し出して俺を呼んだ。 「お小遣いだから」と言いながら、
千円札を握らされた。 断っても無駄だった。
初めてのチップは
時給と同じ金額で、老婆より50は若い女性達が身体を張って
稼いだものの一部だった。
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